「消費電力は同じなのに、流れる電流が違うのはなぜ?」
「電気機器のWとVAは、何が違う?」
交流では、電圧と電流を掛けた値が、そのまま消費電力になるとは限りません。その関係を読み解く鍵が力率です。
この記事では、有効電力・無効電力・皮相電力の違いから、力率の計算、電流への影響、力率改善用コンデンサの役割までを解説します。
力率とは?有効電力と皮相電力の比率
力率は、皮相電力に対する有効電力の割合です。通常の電力を消費する負荷では、0〜1の数値、または0〜100%で表します。
例えば、有効電力が800W、皮相電力が1,000VAなら、力率は800 ÷ 1,000 = 0.8(80%)です。
同じ有効電力を同じ電圧で使うとき、力率が1に近いほど必要な電流は小さくなります。
力率と効率は別の数値です。
効率は、機器への入力に対して、目的の出力をどれだけ取り出せるかを表します。力率が80%でも、「モーターの効率が80%」「20%が全部熱になっている」という意味ではありません。
有効電力・無効電力・皮相電力の違い
| 種類 | 記号・単位 | 意味 |
|---|---|---|
| 有効電力 | P・W(ワット) | 負荷で平均的に消費され、熱・光・機械的な出力などへ変わる電力。 |
| 無効電力 | Q・var(バール) | コイルやコンデンサへのエネルギーの蓄積・放出に伴う、往復のやり取りを表す電力。 |
| 皮相電力 | S・VA(ボルトアンペア) | 単相では、電圧と電流の実効値の積。電源や配線に必要な容量を考える指標。 |
有効電力|実際に消費される電力
ヒーターが熱を出したり、モーターが機械を動かしたりするときに関係するのが有効電力です。機器の「消費電力○○W」は、基本的にこの有効電力を示します。
ただし、有効電力には機器内部の損失も含まれます。モーターに入力された有効電力が、すべて軸の出力になるわけではありません。
無効電力|エネルギーの往復に関係する電力
コイルは磁界に、コンデンサは電界にエネルギーを蓄え、放出します。このような周期的なやり取りに関係するのが無効電力です。
無効電力そのものが、同じ大きさの熱として消費されるわけではありません。一方、そのやり取りに伴う電流が配線や変圧器を流れるため、設備の容量や損失に影響します。
皮相電力|電圧と電流から見た大きさ
例えば、単相200Vで5Aが流れるとき、皮相電力は200 × 5 = 1,000VAです。有効電力が何Wになるかは、力率によって変わります。
電力の基本は、電力(W)と電流の関係を解説した記事も参考にしてください。
W・var・VAは、そのまま足し算できない
基本的な電圧・電流がともに正弦波の交流回路では、次の関係が成り立ちます。
S:皮相電力 P:有効電力 Q:無効電力
例えば、遅れ力率0.8、有効電力800Wの回路なら、皮相電力は1,000VA、無効電力は600varです。
800 W
平均的に消費する電力
600 var
往復のやり取りに関係
1,000 VA
電圧の実効値 × 電流の実効値
800² + 600² = 1,000²。800Wと600varを足して1,400VAになる、という関係ではありません。
ここでは正弦波の基本として説明しています。
電子機器などで電流波形がひずむ場合、総合的な力率には波形のひずみも関係します。その場合、位相差だけの説明や上の関係式を、そのまま当てはめることはできません。
力率が低いと、なぜ電流が増える?
単相交流の有効電力は、次の式で表せます。電圧と電流には実効値を使います。
電流を求めるとき:I = P ÷(V × 力率)
電圧200V・有効電力800Wを一定として、力率だけを変えて比較しましょう。
| 力率 | 電流の計算 | 電流 | 皮相電力 |
|---|---|---|---|
| 1.0(100%) | 800 ÷(200 × 1.0) | 4A | 800VA |
| 0.8(80%) | 800 ÷(200 × 0.8) | 5A | 1,000VA |
4A
5A
図:単相200V・有効電力800Wでの比較。棒の長さは電流値に比例し、右端を5Aとして表示しています。
力率0.8では、力率1.0のときより電流が25%多く流れます。力率が20ポイント下がったからといって、電流が20%増えるわけではありません。
電流が増えると、配線の発熱損失も増える
同じ抵抗Rの配線では、発熱による損失はI²Rで決まります。上の例で4Aから5Aになると、配線の損失は(5 ÷ 4)² = 約1.56倍になります。
これはその配線部分の損失の比較です。機器の消費電力や電気料金全体が1.56倍になる、という意味ではありません。
計算結果だけで電線やブレーカーを選ばない
実際の選定では、負荷の種類、始動電流、使用条件、電線の許容電流、保護協調なども確認します。また、ここで使った式は単相用です。平衡三相では、線間電圧・線電流を使ってP = √3 × V × I × 力率となります。
モーターと力率の関係|遅れ・進みとは?
電圧と電流が正弦波の場合、その波形のタイミングの差を位相差といい、この角度をφとすると、力率はcosφで表せます。
- 遅れ:電流の位相が電圧より遅れる状態。誘導モーターなどの誘導性負荷で見られます。
- 進み:電流の位相が電圧より進む状態。コンデンサなどの容量性負荷で見られます。
一般的な誘導モーターは、磁界をつくるための励磁電流を必要とし、遅れ力率になります。力率は一定ではなく、負荷の大きさや運転状態によっても変わります。
モーターの「出力kW」と「入力の有効電力」は別です。
銘板の出力をそのままPに入れると、入力電流を小さく見積もるおそれがあります。電流を計算する際は、入力の有効電力を使うか、出力と効率から入力を求める必要があります。
力率改善用コンデンサは何をする?
誘導性負荷による遅れ無効電力に対し、コンデンサの進み無効電力を組み合わせると、電源側から供給する無効電力を減らせる場合があります。これが、進相コンデンサによる力率改善の基本です。
適切に改善できれば、補償する範囲の電源側電流を減らし、配線や変圧器の損失低減、設備容量の有効活用につなげられます。モーター自体に必要な励磁電流がなくなるわけではありません。
コンデンサは、自己判断で追加しないでください。
容量が過大だと進み過ぎになり、高調波や共振への配慮も必要です。インバータの出力側には、力率改善用コンデンサを接続しません。設備の設計条件とメーカーの指示に従って選定します。
力率を改善すれば、電気代は必ず安くなる?
電気料金への影響は、契約や料金体系によって異なります。力率が料金に関係する契約もありますが、家庭で力率を上げれば、同じ割合だけ電気代が下がるとはいえません。
「力率80%を100%にすれば、電気代が20%下がる」といった理解は避け、使用電力量、配線損失、契約上の扱いを分けて考えましょう。
力率はどう確認する?
機器の仕様書や、力率測定に対応した電力計で確認できます。実測値は、運転状態や負荷によって変わります。
電圧と電流だけを測っても、有効電力や力率までは分かりません。単相では有効電力Pと皮相電力Sを同じ運転状態で把握し、P ÷ Sで力率を求められます。
家庭用のプラグ式ワットチェッカーを使う場合も、力率表示の有無と対応電圧・電流・負荷の条件を確認します。100V用の製品を200V回路や制御盤の測定には使えません。
まとめ
- 力率 = 有効電力[W]÷ 皮相電力[VA]。
- 有効電力は消費される電力、無効電力はエネルギーの往復に関係する電力。
- 同じ電圧・有効電力なら、力率が低いほど電流が大きくなる。
- 力率80%は「20%がすべてムダ」という意味ではない。
- 力率改善用コンデンサの選定には、設備全体の検討が必要。
まずは、「同じWでも、力率によって必要なAが変わる」という関係を押さえましょう。WとVAを区別できると、機器の仕様や電源容量を読み取る力につながります。


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